About / BLESS

 今年の冬は寒い。ロンドンやパリのような身体の芯まで届く寒さではないが、吸い込む息が硝子のように冷たく肌を刺す痛みがある。夜にベランダでタバコを吸っていると、どこかノスタルジーな気分になるのは、春が近づいているからでしょうか。いいえ、多分気のせいです。

 

僕の生まれ育った奈良では毎年三月に東大寺二月堂にて行われる修二会ことお水取りが冬に別れを告げ、春の訪れを予感させる。だが、服屋にとっての早春の風物詩はSpring / Summer  Collectionの入荷。届き次第、もう春なんです。

 

″立ち上がり″シーズンは服屋にとって重要な意味を為す時期でもあります。そこで、今季2022,SSから取り扱いがスタートしたベルリン発のデザイナーズブランドBLESSについて、考えた事を少し。

 

 

今や僕たちの生活の当たり前になりつつある、withコロナ、ステイホーム、ソーシャルディスタンス。「新たな生活様式」という名のつまらない標語で自分を誤魔化し、過去の生活を否定しながら生きている。そんな窮屈な現代社会を少しでも楽しく、ユニークに過ごすために、BLESSチームは今シーズンもユーモア溢れる独創的なアプローチで僕たちを出迎えた。

 

なかでも、コレクションタイトルである”TASTE-ITS”と名付けられたレコード型のチョコレートは今季のアイコン的なプロダクトであり、一際目を引く存在である。このレコードにはドイツ語の歌が収録されており、実際に盤に針を落とすと曲が流れるらしい。そして、一通り音楽を楽しんだあとは、叩き割ってチョコレートとして美味しく食べて欲しい、とのこと。シーズンを象徴するアイテムがチョコレートだなんて。ファッション界を拠点にしながら、家具や家電、便利グッズまで手掛けるマルチクリエイティブに才能を発揮するBLESSらしい提案だ。

 


BLESS
チームは日常に潜む思いがけない些細なことからインスピレーションを得て、アイデアとして形にする。今ある日常を見渡して、視点をほんのすこしズラすことで世界が全く違う見え方になったりする。また、それは同時に「今を立ち止まって考える力」であり、間接的に未来へ働きかける行為なんだと思う。日常生活をより豊かに、彩るスパイスは案外身近なところに転がっていたりする。これほど、着る人に主体的に新たな視点気付きを与え、思考を掘り起こすことができるのはBLESSならではの力と言えるのではないだろうか。

 

今も僕は意気揚々と、「流石に今着るには早かったかな、寒いな」、なんて思いながら今シーズンの服を着てこのブログを書いている。でも、着ていると毎日が楽しい。着れば着るほど発見がある。初めは扱いづらいかも知れないけれど、それをどうにかモノにしてやろう、と意気込んでしまう。そういったプロセスも含めて、楽しいんです。

 


僕たちと一緒にBLESSを着よう。BLESSを着ることで僕たちの心がどのように豊かになるのか、一緒になって考えよう。共有しよう。イネスとデジレの脳内をそのまま転写したかのような膨大な情報量が詰め込まれた洋服たちを前に、一緒になって頭を悩まそう。 

 

科学技術の発展により、物質的な豊かさは享受されたが、本質的な心の豊かさは置き去りにされてはいないだろうか。僕はこのブランドを通して未来と過去を備えた視座と、現在という名のうねりを強く感じている。

 

 

 

 

 

The photos in this article are taken from https://instagram.com/bless_service?utm_medium=copy_link

 

イイダリョウタ